横浜地方裁判所 昭和62年(ワ)1388号 判決 1989年9月28日
原告
社会福祉法人こどもの国協会
右代表者理事長
翁 久次郎
右訴訟代理人弁護士
秋 山 昭 八
同
近 藤 登
同
菊 地 幸 夫
被告
マストモ商会こと
小 川 康 平
右訴訟代理人弁護士
山 口 達 視
主文
被告は、原告に対し、別紙目録記載一記載の物件を収去して、別紙目録二記載の土地を明け渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。
事実
第一 申立
一 請求の趣旨
主文一、二項同旨の判決及び仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 請求原因
1 原告は、児童福祉法四0条に規定する児童厚生施設を経営する事業のうち、児童のための遊戯施設、教養施設、生活訓練施設等を設置、運営することを目的とする社会福祉法人である。
2 原告は、被告に対し、昭和五八年四月一日別紙目録二記載の土地(以下「本件土地」という。)における遊戯場(以下、被告の運営している遊戯場を「本件遊戯場」という。)の運営を期間二年で委託し、被告はこれを受託し(以下「本件契約」という。)、本件土地上に別紙目録一記載の物件(以下「本件物件」という。)を設置した。
3 本件契約は、昭和六0年四月一日更新され、昭和六二年三月末日限り期間満了となるところ、原告は、子供の安全管理の必要上、直営とすることを理由として、昭和六一年四月一一日本件契約を更新しない旨通知した。
よって、原告は、被告に対し、本件契約が昭和六二年三月末日限り終了したことに基づく原状回復として本件物件収去、本件土地明渡を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実は全部認める。
三 抗弁及び被告の主張
1 契約の更新
(一) 原被告間において、本件契約が昭和五八年四月一日締結された際、本件契約の期間二年の定めにかかわらず、本件契約を継続的に更新する旨の合意がなされた。この意味は、被告側の契約違反、原告側の遊戯場廃止等の著しい事情変更がない限り、本件契約は自動的に更新するというものである。
そして、本件契約は、昭和六0年に更新され、昭和六二年三月末日本件契約は更に更新されたものであり、原被告間の契約関係は存続しているものである。
(二) 本件契約に付属する覚書七項には、原告に正当な理由のない限り、本件契約は更新する旨定められている。
原告の更新しない理由は、「子供の安全管理の必要上、原告の直営とする」というものであるが、被告は、過去一六年間子供の安全管理に問題を起したことはないし、現在も何ら問題を起こしていない。原告の真意は、儲りそうだから自分で経営したい、というところにある。このような理由は長年にわたる両者の信頼関係と被告の貢献を踏みにじるものであって、到底正当な理由とは言い難い。
(三) 右のような契約がなされた経緯は以下のとおりである。
原告の前身である特殊法人こどもの国協会と被告間において、昭和四六年五月一日遊具の設置及び運営契約が締結された。
この契約の骨子は、特殊法人こどもの国協会は、被告の遊戯場の経営を委託すること、遊戯場の経営は、すべて特殊法人こどもの国協会の指示にしたがい、特殊法人こどもの国協会名義で行うが、その必要費用一切は、被告の負担とすること、被告は、売上金の二0パーセントを特殊法人こどもの国協会に納付すること、契約期間は一年とするが、当事者の一方から解約の意思表示のない限り自動的に更新するというものであった。
なお、右契約内容につき付言すれば、特殊法人こどもの国協会から被告の経営を委託する形をとったのは、特殊法人こどもの国協会がこの種の経営に不慣れであったため、被告に経営を任せる趣旨であり、また、実質的には特殊法人こどもの国協会が土地を提供し、被告が土地使用料を支払う内容であったが、借地法等によって被告の権利が強化されることを特殊法人こどもの国協会がおそれたためである。契約期間については、特殊法人こどもの国協会は、公的団体のため、あまり長すぎる契約期間は好ましくないので、一年契約の形式をとるが、被告にはずっとやってもらうとの約束がなされ、この契約は、昭和五三年まで更新継続した。
特殊法人こどもの国協会と被告間において昭和五三年一0月一日に新たに契約が取り交わされた。この契約において、契約期間は昭和五六年三月三一日までとされたが、特殊法人こどもの国協会は、自動更新の形は具合が悪いので、契約期間は、昭和五六年までとするが、被告との契約関係は、それ以後も同様とする旨の約束をした。
昭和五六年に同様な契約が締結されたが、契約期間は、昭和五八年までの二年間に短縮されてしまった。契約締結の際、原告から被告との契約関係は、期間終了後も以前と同様に更新継続する旨の約束がなされた。しかし、被告は、契約を忠実に遵守してきたにもかかわらず、次第にかつ一方的に契約内容が被告の不利に変更されてきたことに不安を感じ、契約の継続についての保証を求めたところ、原告は、契約中には自動的に更新するような文言を記載することはできないと主張し、結局、付属の覚書六項に契約更新につき原契約の更新を希望する被告の意思を尊重する、同七項に原告に更新を拒絶する正当な理由がなければ、契約を更新する旨の条項が加入された。
昭和五八年にも前回と同様な契約がなされた。
被告は、契約を忠実に守り、すべての事項について、原告の指示にしたがって運営してきた。この間、原告の都合により遊戯場の場所を五回くらい移転し、その都度多額の出費を余儀なくされている。被告は、これらの費用については、一円たりとも原告に請求していない。
2 権利の濫用
被告は、本件遊戯場の経営によって、従業員と被告自身の生活を維持している。被告には、妻と六人の子供がおり、内四人は、未成年者で親の庇護を必要としている。なお、事情により、被告は、他に事業を一切していないから、本件遊戯場を失えば、生活の途を断たれることになる。
被告は、今回の更新拒絶に際し、話し合いもせず、被告に一方的に通告したものである。更に、被告は、長年誠実に契約を守り、原告に少なからざる貢献をしてきたことも勘案すると、仮に、原告の更新拒絶の理由が正当なものだとしても、なお、その更新拒絶は、権利の濫用として許されないものである。
四 抗弁に対する認否及び被告の主張に対する反論
1(一) 抗弁1(一)の事実中、本件契約は、昭和六0年に更新されたことは認めるが、原被告間において、本件契約が昭和五八年四月一日締結された際、本件契約の期間二年の定めにかかわらず、本件契約を継続的に更新する旨の合意がなされたことは否認する。このような合意は一切なされなかった。その余は否認する。
(二) 同1(二)の事実中、本件契約に付属の覚書七項には、原告に正当な理由のない限り、本件契約は更新する旨定められていることは認める。
本件契約は、準委任契約であって、本来期間の更新拒絶には何らの理由も不要であり、したがって、覚書七項記載の正当な理由とは特段の理由を必要とするものではなく、単に故なくと同義に解されるべきものである。
ところで、昭和五六年四月一日、特殊法人こどもの国協会が社会福祉法人に改組された後は、国有財産無償貸付契約により、原告は、貸付物件にかかるこどもの国を経営するに当たっては、営利を目的としまたは利益をあげてはならない旨明定され、被告が経営する本件遊戯場が右目的にそぐわないので、原告は、被告に対し、本件契約の更新拒絶を申し入れたところ、被告が応じないため、やむなく前の契約期間三年を二年に短縮して更新することとしたが、その間二回にわたり本件遊戯場利用中の子供が負傷し、また遊戯料が高いため利用者から原告に苦情が申し入れられる等の事情が生じたため、昭和五八年四月以降の更新についても、原告は、これを拒絶すべく申し入れたが、被告の強い要請により、やむなく昭和六0年三月末日の期間を定め更新したのであるが、この間も右同様の事情があったため、原告は同年四月以降の更新拒絶を申し入れたが、またもや被告の強い要請があったため、原告は、再度の期間更新はしないこととして、昭和六0年四月一日から二年間に限って期間を更新したものである。
本件契約六条の定めにかかわらず、契約を継続的に更新する旨の合意は一切存しなかった。
原告の設置目的は原告定款一条に定めるとおり、児童福祉法四0条に定める児童厚生施設を経営する事業を営み、心身ともに健やかな児童の育成に寄与することを目的とするものであり、被告主張のような営利目的の事業はなし得ないこととされている。
然るに、被告の設置する本件物件は、右目的に背反し、併せて国有財産の安全管理上からも問題が多々あり、改善が強く要請されて来たところであり、右目的を実施するには、原告の直営以外に方法がないことから、今回の措置に及んだものであり、まさに正当な理由がある。
(三) 同1(三)の事実中、
原被告間において、昭和四六年五月一日被告主張の内容の遊具の設置及び運営契約が締結されたことは認める。
本件土地は、従前原告の前身である特殊法人こどもの国協会当時は、政府出資財産であり、こどもの国協会法二七条により土地の貸付は厚生大臣の認可事項とされ、事実上不可能であった。また昭和五六年四月一日特殊法人こどもの国協会が原告に承継された後は、右土地は国に返還され、改めて国との間に国有財産無償貸付契約がなされたもので、右契約では、転貸は禁止されているほか、原告は、こどもの国を経営するに当たっては、営利を目的とし、または利益をあげてはならない旨定められているのである。
本件契約は、右法律ないし貸付契約にしたがった措置であって、被告が主張するごとき原告が土地を提供し、被告が土地使用料を支払う内容であったが、借地法等によって被告の権利が強化されることをおそれたためのもの等ということはない。
原告は、従前特殊法人であった当時、国から「児童の健康を増進し、かつ、その情操を豊かにするための施設を設置してこれを適切に運営し、もって心身ともに健やかな児童の育成に寄与する」旨の公益目的を与えられていたものであったところ、特殊法人こどもの国協会は、昭和五二年春、かねて計画中のスケート場兼用の総合プールの建設を実施することになり、他面、被告運営の遊戯場が右目的にそぐわない状況になりつつあったため、本件遊戯場の返還を求めていたものである。
原被告間において昭和五三年一0月一日に新たに契約が取り交わされたことは認める。
特殊法人こどもの国協会は、契約期間は、昭和五六年までとするが、被告との契約関係は、それ以後も同様とする旨の約束をしたことは否認する。
昭和五六年に同様な契約がなされたことは認める。
本件契約につき、厚生大臣の認可をとっていないこと、公法人として一個人に営利行為を行わせることの違法性、業務内容が設置目的に反して好ましくないこと等の理由から、期間を短縮したものであり、原告から被告との契約関係は、期間終了後も以前と同様に更新継続する旨の約束をしたことは否認する。
昭和五八年にも前回と同様な契約がなされたことは認める。
遊戯場の移転は、当初から原告の業務上の必要がある場合は何時でも明け渡す約定であり、常々移転に際し、費用をかけないよう要請してきたところであり、被告は、一切迷惑をかけない旨確約してきたものである。
2 権利の濫用
全部争う。
被告は、原告に対し、かねてからドリームランドの遊戯場、レストランのほか、焼鳥屋、民宿等を経営している旨説明している。
五 再抗弁
本件遊戯場周辺には、各種自転車による健康増進、体力の開発、運動能力の促進等のための施設があり、右は年間延べ四0万人が利用するもっとも利用度の高い施設である。ところが、右施設と本件遊戯場が混在しており、最盛時には、安全管理上憂慮すべき状態で、早晩再開発する必要に迫られていた。
本件遊戯場は、施設の内容がすべて電動による興味本位の遊具、設備であるため、原告の設立趣旨及び事業目的にそぐわず、更に、他の施設に比較し、利用者に対し、高い負担を強いる営利目的の強いものであり、二回にわたり本件遊戯場施設を利用中の子供が負傷し、利用者からの苦情が多く、幼児用各種体力増進、運動能力開発遊具を整備し、これを直接運営する必要があった。
また、原告が従前の特殊法人から事業を承継するについて、衆議院において、昭和五五年一一月一三日児童の健全育成の目的が充分活かされるよう特段の配慮をし、かつ、子供の安全を確認するための充分な措置を講ずること、そのために必要な助成を行い、その整備発展に配慮する等の附帯決議がなされた経緯もあり、原告の長期計画において、本件遊戯場の廃止ならびに周辺施設の再開発を第一順位として、この計画実施のため、昭和六一年春国庫補助の要請をしたが、本件契約の解約交渉が決着しないため認められず、やむなく順延している。
右のように、原告は、前記国有財産無償貸付契約を遵守し、真に公益法人の目的を達成するという正当な理由がある。
六 再抗弁に対する認否
争う。
原告の主張によれば、被告が営利目的であること自体が問題であるかのようであるが、そうであるとすれば、その認識自体に問題がある(資本主義体制下においては、営利と公益が、必ずしも背反しないことは常識である。旧国鉄の例が端的ではないか)し、営利が問題とされるのは国と原告間のことであって、被告には直接関係のないことである。
施設利用中の負傷については、他の遊園地においてもよくあることであるが、本件遊戯場においては、通産省の認可基準に適合した機械を使用しているのであるから、事故は、利用者自身の利用方法に問題がある場合が多いものと言える。しかしながら、被告は、事故はすべて営業に付随する義務として自費で補償をしてきた。原告に迷惑をかけたことは一度もない。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因事実は全部当事者間に争いがない。
二ついで、抗弁事実について判断する。
1(一) <証拠>によれば、本件契約に付属する覚書七項には、「甲(原告)は、正当な理由がある場合は、期間満了6ケ月前に予め乙(被告)に対し、原契約を更新しない旨を通知しなければならない。この場合、原契約は期間満了と同時にその効力を失う。」と規定されており、また、同六項には、「原契約第6条に規定する有効期間の満了に当たり、甲は、乙が原契約、およびこの覚書の各条項を誠実かつ円滑に履行した事実があると認められるときは、原契約の更新を希望する乙の意思を尊重するものとし、甲並びに乙から何ら意思表示がないときは、これを更新するものとする。」と規定されている。本件契約における、「正当な理由」とは、どのような内容をいうのかが問題となるので、この点につき検討する。
(二) 本件契約は、昭和六0年に更新されたこと、本件契約に付属する覚書七項には、原告に正当な理由のない限り、本件契約は更新する旨定められていること、原被告間において、昭和四六年五月一日被告主張の内容の遊具の設備及び運営契約が締結されたこと、原被告間において昭和五三年一0月一日に新たに契約が取り交わされたこと、昭和五六年に同様な契約がなされたこと、昭和五八年にも前回と同様な契約がなされたことは、当事者間に争いがない。
(三) 本件契約が昭和五八年になされた経緯につき、右争いのない事実、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告の前身は、特殊法人こどもの国協会であり、こどもの国協会法により昭和四一年に設置された特殊法人であり、その目的は、「児童の健康を増進し、かつ、その情操を豊かにするための施設を設置してこれを適切に運営し、もって心身ともに健やかな児童の育成に寄与する。」(同法一条)という公益目的であり、本件土地は、政府出資財産であり、同法二七条により土地の貸付は厚生大臣の認可事項とされ、事実上不可能であった。
(2) 特殊法人こどもの国協会と被告間において、昭和四六年五月一日遊具の設備及び運営契約が締結された。
この契約の骨子は、特殊法人こどもの国協会は、被告の遊戯場の経営を委託すること、遊戯場の経営は、すべて特殊法人こどもの国協会の指示にしたがい、特殊法人こどもの国協会名義で行うが、その必要費用一切は、被告の負担とすること、被告は、売上金の二0パーセントを特殊法人こどもの国協会に納付すること、契約期間は一年とするが、当事者の一方から、期間の末日の一ケ月前までに解約の意思表示のない限り自動的に更新されるというものであった。
右は、特殊法人こどもの国協会が財政的に窮迫していたため、遊戯施設の運用により、財政状況を好転させようとしたが、そのためのノウハウ等がないため、出入り業者であり、横浜ドリームランドで遊戯場を運営していた被告に右の運営を委託したものであった。
契約期間については、特殊法人こどもの国協会は、公益目的の団体のため、あまり長すぎる契約期間は好ましくないので、一年契約の形式をとった。ただし、当時としては、一年で契約を終了するということではなく、前記のように、更新を予定した条項があり、被告が、継続して経営委託を受けることが予定されていた。この契約は、昭和五三年まで毎年更新継続された。
(2) 特殊法人こどもの国協会は、財政状況の好転にともない、本件遊戯場が右目的にそぐわないものであると考えるようになり、昭和五0年ころ、本件遊戯場の当時の設置場所に、かねて計画中のスケート場兼用の総合プールの建設を実施することになり、被告に対し、本件遊戯場の返還を求めた。このときは、被告は、本件遊戯場施設を他の部分に移転することで話がついた。
(3) 原告は、(被告との交渉担当者は、岩本経理課長であった。その後も同様である。)昭和五三年の更新時に、契約期間を三年に延長するものの、更新について全く条件のない提案をしたため、なかなか折り合いがつかなかった。
特殊法人こどもの国協会は、当時数年後には、社会福祉法人に事業が承継されることが予想されていたため、その際、国有財産無償貸付にともなう制約等から本件遊戯場を廃し、子供の健康増進のための諸施設を直営によることを企図し、従前の一年更新の運用を中止し、契約条項に更新規定をおかず、期間を三年と限定することとしたかったものであり、契約八条には、「この契約が……終了したときは、乙(被告)は速やかに自らの費用を持って甲(特殊法人こどもの国協会)が指示する物件一切を収去して無条件に立ち退くものとし、かつ名目の如何を問わず、金品の請求をしないことを確約する。」という条項を加入させた。そのため、この契約交渉は難航し、本来であれば、更新期間の昭和五三年四月一日以前に締結されるべきところ、大幅に遅れ、同年一0月一日にようやく成立し、実質上二年半の期間として昭和五六年三月三一日までとされた。
この際、特殊法人こどもの国協会の提案中に更新についての規定がないため、被告は、不安を感じ、契約の継続についての保証を求めたところ、原告は、契約中には自動的に更新するような文言を記載することはできないと主張したため、結局、契約に付属する覚書(その2)一項に、契約更新につき「原契約の更新を希望する被告の意思を尊重する……」、としたが、特殊法人こどもの国協会において、更新をしない場合もありうることから、特殊法人こどもの国協会の希望で同二項に「原告に更新を拒絶する正当な理由がなければ、契約を更新する」旨の条項が加入された。
(4) 特殊法人こどもの国協会は、こどもの国協会の解散及び事業の承継に関する法律により解散し、その事業は、昭和五六年四月一日原告に承継された。
原告の目的は、児童福祉法四0条に規定する児童厚生施設を経営する事業のうち、児童のための遊戯施設、教養施設、生活訓練施設その他児童の健康を増進し、またその情緒を豊かにするための諸施設が総合的に整備された集団施設を設置し、及び運営すること及び右の附帯事業を専ら行い、もって心身ともに健やかな児童の育成に寄与するというものである。
本件土地は一旦国に返還され、改めて、国との間に国有財産無償貸付契約がなされた。右契約により、本件土地の転貸は禁止され、また、原告は、こどもの国を経営するに当たっては、営利を目的とし、または、利益をあげてはならない旨規定されている。
(5) 前記契約は、特殊法人こどもの国協会を承継した原告と被告間で、昭和五六年四月一日期間を更に二年に短縮して更新し、昭和五八年三月三一日までとしたが、その際も右契約八条において、前記のとおり期間満了の際の明渡しについて、前記と同様な確認がなされるとともに、覚書においても、若干の語句の変更がなされてはいるものの、更新及び更新に関する規定がなされている。
(6) 原被告間で昭和五八年四月一日、期間を二年とする本件契約が締結されたが、その際、更新についての規定は、前認定のように、ほぼ同様であった。
(7) 原告は、直営による改善策を講ずるため、更新を望まず、本件遊戯場撤去の交渉を進めてきたところ、被告は、撤去を拒絶し、右時期が期間満了前六カ月の更新拒絶の意思表示期間を徒過していたため、本件契約は、昭和六二年三月二一日まで期間を更新されることとなった。
(8) その間、原告の希望により被告は、本件遊戯場を何回か移転しているが、これは、契約中に、原告の業務上の必要がある場合は何時でも明け渡す約定があり、それにより、被告が移転したものである。
以上の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。
(二)(1) ところで、被告は、原被告間において、本件契約が昭和五八年四月一日締結された際、本件契約の期間二年の定めにかかわらず、本件契約を継続的に更新する旨の合意がなされ、その内容は、被告側の契約違反、原告側の遊戯場廃止等の著しい事情変更がない限り、本件契約は自動的に更新されるというものである旨、本件契約に付属の覚書七項には、原告に正当な理由のない限り、本件契約は更新される旨定められているが、原告は、正当な理由を有しない旨主張している。
(2) しかしながら、原告において、被告に対し、期間の定めにかかわらず、本件契約を継続的に更新する旨の合意がなされた事実は認めるに足りず(この点についての<証拠>は、前掲各証拠に照らして措信できない。)、前認定の事実に徴すると、正当な理由の規定は、原告側において、被告がこれ以上更新を続け、本件土地上で営利事業を継続することを防止するため、原告側の希望により、原告に土地利用の必要性がある場合には、更新を許さないという考えの元に、覚書に加入したものであり、右経緯に鑑みると、本件契約の覚書における「正当な理由」とは、借地法等における借地人等の権利保護のために、規定されている正当事由とは異なり、原告において、それが、単に被告の権利を奪うためのみでなく、本件土地の使用あるいは、こどもの国運営のために必要な目的があれば、本件契約の更新を拒むことができるというものであると解される。
三再抗弁事実について判断する。
1 <証拠>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件遊戯場周辺には、各種自転車による健康増進、体力の開発、運動能力の促進等のための施設があり、多数の入園者が利用するもっとも利用度の高い施設がある。ところが、右施設と本件遊戯場が混在しており、本件遊戯場は、施設の内容がすべて電動による興味本位の遊具、設備であり、他の施設に比較し、利用者に対し、高い負担を強いる営利目的の強いものであり、利用者からの苦情があり、原告の前記目的にそぐわず、原告において、右目的を実施するには、営利目的による運営をなし得ないことから、幼児遊具広場を設置し、幼児用各種遊戯によって、幼児の体力の増進をはかると同時に周辺整備を行うため、これを直接運営する必要がある。
以上の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。
2 原告は、前記のように児童福祉法四0条に定める児童厚生施設を経営する事業を営み、もって心身ともに健やかな児童の育成に寄与することを目的とするものであり、営利目的の事業はなし得ないところ、本件遊戯場は、こどもの国の他の施設に比し、原告の目的にそぐわず、営利性が高いものであるから、原告において、施設を直営する目的が存する以上、単に被告を追い出す目的で、本件遊戯場の明渡しを求めているということはできない。
したがって、原告の更新拒絶は、前記正当な理由を有するものであるということができ、その意思表示は相当なものであるから、原告の請求は、理由があるものというほかない。
四被告の権利の濫用の抗弁は、被告の主張のみでは、権利の濫用に当たらず、主張自体失当である。
五以上の事実によれば、原告の求める本訴請求は、理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言については民法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官宮川博史)
別紙<省略>